2011年11月30日水曜日

冬の前日


今日は11時ごろに調査開始。
イングリッシュを2軒回ったところで、ガイドさんが別のプロジェクトの方で呼び戻され、
まだ1時少し過ぎなのに調査終了。
調査はあと1,2回しか行くことができません。
ガイドさんはもともと別のプロジェクトでOARDCに呼ばれている人なので、
いつまでもこちらの調査を手伝っているわけにはいかないのです。

アンケートだけだと統計分析に堪えるだけの数が集まりそうにないので、
昨日から、アンケートにただ答えてもらうだけでなく、回答理由なども口頭で聞くようにしています。
アンケートによる統計データの少なさを、インタビューによる記述データの豊富さで補う、
というのが狙いです。
その一環としてですが、受け入れ先の先生の提案で、
昨日から身近な場所の愛称を聞くようにしています。
たとえば、家の近くの丘が"Cherry Hill"だったり、泉が"Bushy Springs"というような愛称を
持っていることがあります。
アメリカの、とくに田舎では身近な場所に愛称をつけることが多いらしいです。
日本でもたとえば田んぼの水路が二つに分かれるところを「二又」と呼ぶことがあります。
おそらく、自然を地域固有のものとして見るから、丘や泉に愛称をつけるのではないでしょうか。
調査途中で追加した質問項目なので、データとして使えるかどうかはわかりませんが、
アーミッシュの自然観を説明するときのわかりやすい例にはなるかもしれません。




今日は風雨が強く、車から玄関までたどり着くまでに結構雨に打たれました。
また、たいていの農家は犬を飼っていて、鼻を押し当ててきたり、腕を甘噛みしてきたり、
立ち上がって抱きついてきたりするので、服が犬の鼻水・よだれでベチャベチャです。
そうしてつけられた犬の臭いに、次の家の犬が反応してまた臭いをつけてくるという、
「犬の悪循環」がこのところ続いている気がします。

明日は寒くなるようです。
天気予報によると、最高気温は5℃、最低気温は-4℃。
例年より気温が高めだったウースターもようやく冬に入ります。

リスの剥製。
スミソニアンの自然史博物館で撮影。
骨バージョン

2011年11月25日金曜日

サンクスギビングの前

今週木曜はサンクスギビング。
 アメリカ人にとってサンクスギビングは家族や親戚の集まる祝日で、
 金曜日も学校は休日なので、実質4連休になります。
 そういうわけで今週調査ができたのは月、火、水の3日間だけでした。



今週の収穫は、
月曜:5軒、火曜:5軒、水曜:2軒の計12軒。
ガイドさんは来週には別のプロジェクトで動き出すので、そろそろ調査も終わりです。

今週は水曜は晴れていたものの、月曜、火曜は雨模様で、
調査が終わるころにはすっかり体温が奪われ、ぐったりしていました。
ガイドさんも寒がっていましたが、薄手のシャツにぺらぺらのジャケットを羽織っただけでは
そりゃ寒いでしょう。
その翌日は下にTシャツを着ていて、「今日はこれを着ているから大丈夫」と言っていましたが、
大丈夫じゃないでしょう。
アメリカ人は寒さに対する感じ方が日本人と違うのか、雪が降りそうな気温でも
Tシャツ一枚で平気で街を歩いていたりします。

雨の日の物干し竿   

カボチャ畑

ハートマークをあしらったアーミッシュの納屋(?)  

水曜の最後に訪れたのは、ガイドさんの言葉でいえば「狂信的なメノナイト」。
政府を異様に恐れ、世捨て人のようにボロボロの家で暮らしていて、調査依頼をしたときも、
「政府に情報を提供するのか」とガイドさんに何度も聞いていました。
結局調査は断られ、あきらめて帰るときに
"Don't get back.(もう来るな)"
と言われました。
メノナイトの名誉のために言っておくと、普通のメノナイトというのはもっと良識があって、
見た目も性格もアーミッシュに似てとても穏和な人々です。
「メノナイトだから」こういう態度を取ったのではなく、「狂信的だから」と判断した方がよいでしょう。


サンクスギビングの間はワシントンDCを観光して回る予定で、
今はワシントンのホテルでブログを書いているところです。
ワシントンの観光ブログはネットを探せばいくらでもあるので、
ここには多分載せないと思います。

2011年11月22日火曜日

5連勝




今日は11時に調査開始。
5軒訪ねて、5軒とも在宅で調査OK。
1日5軒は当初想定していたペースで、本当はこれで当たり前なのですが、
先週が凪ぎ過ぎだったのに比べればハイペースです。
隣でガイドさんが喜んでいるので、喜ぶべきなのだなと思い、素直に喜びました。

ところでアーミッシュにもいろいろ種類があって、調査ではそれも聞いています。

swartzentruber
    一番保守的なアーミッシュ。カタカナでなんて書けばいいのかわからないですけど、
    ガイドさんは「スワーツェントゥルーバー」と発音しているように聞こえます。
    
オールドオーダー
    二番目に保守的なアーミッシュ。

ニューオーダー
    三番目に保守的なアーミッシュ。ただし、宗教的な規律に関してはオールドオーダーより
    保守的。

また、三百年前にアーミッシュから分かれた一派としてメノナイトがいます。
メノナイトはアーミッシュではなくて、ニューオーダーよりもさらに保守的でなく、
馬車の代わりに自動車を運転することもできます。
アーミッシュでない人をイングリッシュといいますが、イングリッシュにはメノナイトも含まれます。

アーミッシュ:スワーツェントゥルーバー、オールドオーダー、ニューオーダー
イングリッシュ:メノナイト、アーミッシュとメノナイト以外の全ての人間

「イングリッシュ」というのはアーミッシュ以外の全ての人間なので、
アーミッシュからすればアメリカ人も日本人もイングリッシュになります。

ちなみに今日は、
 1軒目:メノナイト
 2軒目:イングリッシュ(非メノナイト)
 3軒目:アーミッシュ(ニューオーダー?)
 4軒目:スワーツェントゥルーバー
 5軒目:イングリッシュ(非メノナイト)
という内訳でした(3軒目は再調査の必要あり)。

ところで「保守的」というのは、外の社会にあまり妥協しないということです。
たとえば、馬車の後ろに反射板を貼るかどうかという問題があります。


馬車の後ろについているオレンジの三角形が反射板です。
オールドオーダーとニューオーダーの馬車には反射板が貼ってありますが、
スワーツェントゥルーバーの馬車には貼ってません。


寮の窓から撮影したので、ちょっと見にくいですけれど、反射板がないのがわかります。
こういう馬車が、普通の自動車が行き交う公道をのろのろ走っているわけです。



おまけに、アーミッシュが住む地域はたいてい坂がジェットコースターみたいに急で、
登り切るまで向こうに何があるかわかりません。
猛スピードで登り切ったところで馬車がのろのろ走っていたりすると、
追突事故が起こったりするのです。
実際、馬車に乗ったアーミッシュの事故は多く、反射板を貼るのも事故防止のためです。
オールドオーダーとニューオーダーは反射板を貼るのを受け入れていますが、
スワーツェントゥルーバーは受け入れていません。
きちんとした理由は本を読んでもよくわかりませんが、昔ながらのやり方を変えない、
というのが基本にあるのは確かです。

アーミッシュといっても色々いるわけですが、となると問題は、
「アーミッシュって結局なんなんだ?」ということになってきます。
ガイドさんの話では、最近は「電気を使うアーミッシュ」というのも登場しているようで、
いっそう「アーミッシュってなんなんだ?」という問いに答えにくくなっています。
「教会の建物がない」とか「馬車を使う」とか「進化論を学校で教えない」とか、
アーミッシュの特徴を羅列することはできても、
「アーミッシュの定義」をはっきり示すことは難しいし、
そもそもその特徴自体が時代と共に変わっていってしまっている。

ただ、自分の興味からいえば、「外の社会と自分の社会の間にきちんと線を引く」
というのはアーミッシュの重要な特徴のような気がします。
「イングリッシュではないのがアーミッシュだ」なんて無内容なことはいわないけれど、
「境界線に絶えず気を配っている」という点では、
スワーツェントゥルーバーもオールドオーダーもニューオーダーも共通しています。

ほとんどの社会がなし崩し的に近代化してしまったのに対して、アーミッシュ社会だけが
「近代化すると自分たちの社会はどうなってしまうのか?」をきちんと考えて、
「近代社会とどうつきあえばいいか?」を方法化してきたように思います。
そういうアーミッシュの先進的な部分を含めて、「自分なりのアーミッシュの定義」を
いずれ考えて行かなければなあ、と思っています。



2011年11月19日土曜日

いろいろな事情があった


今日は11時調査開始のはずが、ガイドさんの方でいろいろあって、けっきょく1時半開始。
いろいろあったそうで、ガイドさんの髪はぼさぼさ、運転中は始終あくびをしていました。

今日はアーミッシュを一軒調査しただけで時間切れ。
今度のアーミッシュもかなりのおしゃべりで、1時間以上ガイドさんと話しっぱなしでした。
そうはいっても、他にも何軒か回って、「今日は都合は悪いけれど、来週なら」
という返事をもらっているので、来週になればペースが上がるでしょう。

調査の回答者数はアーミッシュと非アーミッシュが同数くらいにしたいので、
アーミッシュと非アーミッシュを交互に調査しています。
車で走行中にアーミッシュ農家と非アーミッシュ農家を見分ける方法はいくつかあります。
たとえば、洗濯物が干してあればアーミッシュ農家です。
アメリカではたいていの家庭に乾燥機があるので洗濯物は外に干さないのですが、
アーミッシュは基本的に電気を使わないので外に干しています。

強風に舞う洗濯物と舞わない犬二頭

また、電線がつながっていない家もアーミッシュである可能性が高いです。
馬車があったり、アーミッシュらしい服装の人影があれば確実です。

酪農家が留守だったので納屋猫を撮影





凪の一週間はこれで終わり。
来週はもっとペースを上げないとそろそろまずいです。

2011年11月18日金曜日

遅延は断固たる否定の形

今日もイングリッシュ農家を二軒だけ調査。
予定よりペースが遅れてきています。


午後からはウースター大学で授業参観みたいなことをするので、早めに調査を切り上げました。

OARDCから一時間くらいかけてウースター大学に到着。
今日はいまにも雪が降りそうなくらい寒くて、手が死にかけました。
授業内容は「緑の革命」で、担当の先生は受け入れ先の先生の元教え子。
「出たらどうか」とずいぶん前に勧められて、今日ようやく出ることができました。
緑の革命というテーマ自体は学生時代に習ったので目新しい内容ではなかったけれど、
学生がやたらと発言するのが印象的でした。
授業後、出席していた学生に、
「ここに来るのに一時間歩いて来た」
と言ったら爆笑されました。
「とても寒かった」
と言ったらまた爆笑されました。
そして寒空の中ひとり帰路につきました。


帰りに中華レストランで、テイクアウトの餃子を買いました。




揚げ餃子と焼き餃子の中間みたいな感じで、かなりおいしかったです。

ところでアメリカで中華レストランに行くと、必ずフォーチュンクッキーがついてきます。
真ん中からポキンと折って、おみくじみたいのをズルズルと引き出すと、
こんなことが書いてありました。


"Delay is the deadliest form of denial."
直訳するなら、
「遅延は断固たる否定の形」
意訳するなら、
「遅れているってことは、もうダメってことだよ」

2011年11月17日木曜日

見渡す限りのショック



天気が悪いので、今日は非アーミッシュの農家を調査に行きました。
アーミッシュは家にいることが多いのですが、
非アーミッシュ(「イングリッシュ」といいます)の農家は仕事で忙しいので、
雨で仕事ができないときじゃないと調査するのは難しいのです。
アーミッシュ研究者のガイドさんは乗り気でないけれど、
アーミッシュのデータだけ集めても、比較対象がなければ分析のしようがないので、
イングリッシュのデータも集めなければなりません。

一軒目では、納屋みたいなところで立ち尽くしながら調査。
調査対象のおじいさんは終了後、ガイドさんを相手に
「これからの農業はどうするのか」というようなことを
熱く語ってました。

二軒目は暖炉のあるきれいな室内で調査。

午後一時過ぎになると、ガイドさんは大学で講義があるとかで調査終了。
一日二軒。
こんな遅々としたペースの調査は初めてです。




この辺りではレアなイングリッシュ農家を探して車で走行中に、謎の物体の群れを見つけました。
これは"shock"というもので、トウモロコシを茎ごと切り倒したものを
いくつかまとめて束にして、垂直に立てたものです。
トウモロコシを乾燥させるためにこういうことをするそうで、
日本でいう「はさがけ」みたいなものでしょうか。
昔のアメリカでは一般的にやられていたそうですが、だんだん廃れてきて、
今ではアーミッシュだけがこの方法を守っているそうです。
"shock"の定訳は「ショック」でいいんでしょうか、どうなんでしょうか。
アメリカにいてはよくわかりません。



ショック……。

2011年11月16日水曜日

雨上がり曇天調査




今日はガイドさんが来たので、ひきこもることもなく調査に行きました。

一軒目は、有機農業のノウハウを教える会社みたいなところで、
中ではアーミッシュの中年女性がパソコンを使って仕事してました。
後でガイドさんに
「あれっていいんですか?」と聞くと、
「仕事だからね。家でパソコン使ってるわけじゃないだろ?」との返事。
なるほど。
これまで会ったアーミッシュは物静かでおっとりした人が多かったのに、
この人はものすごくきびきびしていて、
(ああ、この人はなんか社会人だ)
というよくわからない印象を抱きました。

二軒目は、かの有名なデビット・クラインの家。
デビッド・クラインはライターで、
身の回りの自然をテーマにこれまで3冊本を書いています。
アメリカに来て以来、「自分はアーミッシュの研究に来た」と人に言うたびに、
「デビッド・クラインを読みなさい」と言われてきました。
その中の一冊には、庭に来た野鳥の観察記録が詳細に書かれていて、
「エコライフのすすめ」というのが今のところの印象です。
この人も、アーミッシュなのに、とにかく良くしゃべる人でした。
今日会った二人はあまり典型的なアーミッシュではない気がします。







ところでどういう調査をしているのかというと、
それは少しずつ書いていくかと思いますが、一言でいうと
「アーミッシュの自然観」です。

自分がこれまでやって来た研究もやはり自然観をテーマにしていました。
自分の自然観は、
「自然は日常の一部。日常の一部だから、美しくはないし、
身も蓋もないし、どうってことないし、空気みたいにつまらない。
でも、遊んでるときも、退屈しているときも、読書しているときも、
自然はいつもそばにいて、その時々の自分の気分を支えている」
というもので、だから
「自然の美」とか「エコ」とか言われてもピンと来ません。
環境保護の中に、自然の「日常性」を持ち込むのが自分のテーマだともいえます。

アーミッシュにとっても自然というのは非常に身近な「日常の一部」なのではないか、
と考えてアーミッシュの自然観を今調査しているわけです。ちまちまと。
一日二軒はいくらなんでもちまちま過ぎると思うのですけど。


2011年11月15日火曜日

凪いでる月曜日

月曜日だというのに自宅待機していたのは、
別にアメリカでひきこもりになったわけではなく、ガイドさんが来なかったからです。

アーミッシュの調査は、アメリカ人のガイドの方と一緒に行っているのですが、
この人の都合がつかなければ、調査に行くことはできません。

車はない
土地勘もない
言葉もあまり通じない
おまけにあやしい東洋人

ガイドさんがいるからこの調査は成り立っているのであって、
来てくれなければ手も足もでないのです。

ガイドさんは、私の受け入れ先の先生の元学生で、
アーミッシュの研究で博士号を取った人です。
元ジャーナリストとかで、従軍記者としてイラク戦争にも行ったとか。
元ジャーナリストの文化人類学者だけあって、調査スキルはかなり高い気がします。
今回の調査でも、何軒も回って調査依頼を断られたことは一回もないし、
調査中ほとんどメモを取っているように見えないのに、
後でものすごく詳細に書かれたフィールドノーツ(調査現場の様子やそこで得られた情報を
ドキュメンタリー風にまとめたもの)をくれたりします。
今回はたまたま別のプロジェクトで雇われたらしく、
私の研究のガイドもついでにやってもらっているという感じです。
つまり今回は非常に運が良かったわけで、
この人がいなかったらそもそもアーミッシュの調査なんて不可能だったでしょう。

で、今日はこの人がいなくて調査が不可能なので、
寮でアーミッシュ関連の本をずっと読んでいました。

今夜は大雨で、雷がビカビカまぶしくて、
寮の中国人は「トルネードが発生するかもしれない」と言ってました。
十時現在雨はやみつつあります。
不発だったようです。
前に、昨年にOARDC構内をトルネードが通っていった跡を追いかけ、
写真をたくさん撮って来たことがあります。
この築何十年かわからない寮が襲われたら全壊は免れないでしょう。